トーナメントで一番気を使う場面——それが「バブル」です。
あと1人飛べば賞金確定というタイミングは、誰にとってもプレッシャーがかかる場面。ここでの判断一つが、単なる入賞か、上位フィニッシュか、あるいは無念のバブル脱落かを大きく左右します。
多くのプレイヤーが“飛びたくない”気持ちから手を縮める中、そこをどう攻めるか。逆に、自分がショートのときにどうしのぐか。この局面には、数字以上に読み合いと戦略が詰まっています。
本記事では、そんなバブルをうまく立ち回るための考え方を、ICMやスタック状況、相手との関係性などを踏まえて11の視点から解説します。ライブでもオンラインでも使える、実践的な内容を揃えました。
「とりあえず我慢」ではない、“EVを取るためのバブル戦略”を身につけたい方は、ぜひ参考にしてください。
1. レイズを活用せよ:リンプは敵、アグレッションは味方
トーナメントバブルにおいて、最も大きなEV差を生む行動の一つが「オープンレイズ」だ。多くのプレイヤーが入賞を意識して消極的になっているこのフェーズでは、プレッシャーをかける側が圧倒的に有利となる。特に、後ろにショートスタックが複数存在している状況では、リスクを嫌うミドルスタックたちがレイズに対してフォールドしやすくなる。
一方、リンプでポットに参加すれば、フロップ後の展開は複雑になり、他プレイヤーに安価で参加されるリスクも高い。しかも「この人はリンプ=弱い」と認識された時点で、アグレッシブなプレイヤーのターゲットにもなる。
つまり、レイズは単なるチップ獲得手段ではなく、「バブルで強者と見せるためのシグナル」でもある。
2. フォールドを恐れるな:勇気ある撤退が長期利益を生む
バブルでは「良さそうな手」をフォールドする覚悟が求められる。たとえばA9o、KJsといったハンドは、普段なら十分にプレー可能だが、ICM(賞金分配モデル)上は「飛んではいけないタイミング」では明らかにマイナスとなる。
また、ショートスタックが1人でも残っている場合、自分がミスジャッジで飛んだ時の損失は非常に大きい。入賞を目前にしたときこそ、自分のチップだけでなく“残り人数”や“周囲のスタック構成”といった外的要因を判断材料に加えなければならない。
バブルでのフォールドは臆病ではなく、極めて合理的な選択なのだ。
3. 弱いプレイヤーをターゲットに:受け身な相手のBBは“フリーのチップ”
トーナメントでは、プレイヤーの意図・姿勢が戦略の精度を大きく左右する。特に、明らかにブラインドを守らない、あるいは頻繁にリンプインしてくるような「受け身なプレイヤー」は、バブルでの絶好のターゲットとなる。
こうした相手に対しては、ポジションを活かして積極的にレイズを重ねることで、低リスク・高リターンのスチールを繰り返すことができる。しかも、彼らが“入賞目的”でプレーしている場合、レンジは極端に狭く、フォールド率は高まる。
アグレッシブ=攻撃的というより、EVを最大化する“選択”なのだ。
4. プレイスタイルを読み分けろ:“勝利を目指す者”と“賞金狙い”を峻別する
バブルでは全員が一様に「固く」なるわけではない。むしろ、この局面でこそ差が浮き彫りになる。
たとえば、既に入賞圏外の賞金に興味がない「スナイパー型プレイヤー」は、逆にルース・アグレッシブに攻めてくる。彼らは、賞金ではなくフィールド支配を目指しており、オールインやリレイズにも恐れがない。
一方で、初めて入賞が見えるようなプレイヤーは明らかに慎重になり、スチール対象として最適となる。
「この人は何を目指しているのか?」を1人ずつ分析していくことが、バブル支配の第一歩だ。
5.ライブポーカー特有の“非言語情報”を制せ
ライブトーナメントのバブルでは、表情や手の動き、呼吸の変化などから相手の心理状態を読み取ることが重要だ。たとえば、手をカードから離す、視線をそらすといった仕草はフォールドのサインであり、スチールの好機となる。また、自分の見え方を意図的に操作し、「慎重なプレイヤー」と認識させることで、ライトなアクションに説得力を持たせることも可能。ライブのバブルは、読み合いと演技力による情報戦である。
6. 攻撃対象を分散せよ:一点集中は“対策”される
バブル期に積極的にスチールを試みるのは正しいが、同じプレイヤーばかりを狙い続けるのはリスクが高い。特定の相手に対して毎回レイズや3ベットを繰り返すと、「この人は狙ってきている」と警戒され、相手も反撃(4ベット、トラップ、ライトコールなど)に転じる可能性が高まる。
また、他のプレイヤーからも「この人はいじめている」と見なされると、自分に対するテーブル全体の協調的な反撃が生まれるリスクすらある。
バブルで成功するのは“支配”ではなく“調和”である。ターゲットを広く散らすことで、圧を分散し、敵意を生まない立ち回りが可能になる。
7. 自分のブラインドを守る:無防備は損失の入口
バブル期において「攻める側」が強くなる一方で、守る側=ブラインドの対応力も勝敗を分ける。頻繁にフォールドしていると「ここのBBはフリー」と認識され、無限にスチールされるサイクルに入ってしまう。
たとえばBBでK9oやQTsのような中堅ハンドを持っている場合、ボタンやカットオフからの広めのレイズにはリスチール(3ベットオールイン)や、フロップ勝負を見越したディフェンスが必要となる。
ブラインドを“守る意志”が見えるプレイヤーには、アグレッサーも慎重になる。その結果、他人のスチールを抑制し、自分のEVも安定して高まるのだ。
8. 他人のブラインドを守れ:“場”をコントロールする新視点
実は「自分のチップが減っていないのにEVが下がる」という状況が存在する。それが、アグレッシブなプレイヤーが他人のブラインドをスチールし続け、スタックバランスが崩れ、彼が無双状態になるケースだ。
このとき、自分は直接損をしていなくても、戦略上の主導権を完全に失っている。特にライブトーナメントでは、1人の“支配者”がテーブルのリズムを狂わせる。
その支配を防ぐためには、自分がそのプレイヤーに対して敢えてリレイズを仕掛けたり、ショートのブラインドに立ち向かうなど、“バランスの調整者”として動く必要がある。これは中級者以上に求められる高度なテーブルダイナミクス戦略だ。
9. 最後のベットを握れ:ポストフロップは主導権がすべて
バブル期でもフロップ以降のプレイは発生する。ここで鍵となるのは「主導権を握り、最後にベットすること」だ。
たとえば、BTNでオープンしてBBにコールされ、フロップでc-betを打った際、相手が消極的であればその後も2ndバレルでプレッシャーをかけることで、フロップ後の展開を自分の土俵に持ち込める。
逆にチェックバックばかりしていると、「この人は怖がっている」と見られ、相手がポジション無しでも積極的にブラフを打ってくるようになる。
フロップを見た瞬間からの戦いは“手札”だけでなく“心理”で行われる。バブル期においては、ベットの頻度・タイミング・サイズを駆使し、相手の不安を最大化することが求められる。
10. スタック構築こそ最強のバブル戦略:準備で勝敗は決まる
最後に最も根本的なことを述べる。バブル戦略のすべては、「十分なスタックを持っていること」が前提である。
30BB以上のスタックを保ってバブルに入れば、スチール・リスチール・ポストフロッププレイなど、あらゆる戦術が選択肢に入る。逆に、5BB未満で迎えれば「入賞できるか?」という運頼みの短期サバイバルに過ぎない。
つまり、バブルを制する者は、バブル前から構築しているのである。たとえば、バブル10人前からアグレッションを上げ、ショートが増えたらスチールを繰り返し、早期に30〜40BBを確保する——これが真の意味での“バブル支配型”プレイヤーの特徴だ。
総括:バブル期は“技術”より“意図”が勝る
バブルは単なる生き残りゲームではなく、心理・構造・ICM・人間観察のすべてが絡み合う、極めて戦略的なフェーズだ。
このフェーズをEVの観点で制圧できるプレイヤーこそ、長期的に収支をプラスにできる。
バブルを“ただ耐えるもの”から、“仕掛ける機会”に変えられた時、あなたはすでに上級者の扉を開いている。
コメント